「AIに文章を書かせてみたが、出てきたものが薄い」という相談を、小さな会社の社長から何度か受けました。画面を見せてもらうと、つまずいている場所はたいてい同じです。書かせるときの指示が、一行しかないのです。「うちの店の宣伝文を書いて」。これで良いものが返ってきたら、そちらの方が不思議だと私は思います。
文章を書くAIは、こちらが決めていないことも決めてくれます。ただし、その決め方は私たちの店の事情とは無関係なところで決まります。ならば、先に決めておくべきところは、こちらで決めてから渡す。それだけで返ってくる文章は変わります。私が普段、書かせる前に紙へ書き出している項目を順に挙げます。
誰に読ませるのかを、一行で書く
いちばん効くのはここです。「三十代の前半で、小さな子どもがいて、一日の時間が細切れになっている人」。このくらいまで絞ると、返ってくる文章の言葉づかいが変わります。年齢や家族構成だけでなく、その人がどんな状況でこの文章を目にするのかまで書き添えると、さらに近づきます。
逆に「たくさんの人に届くように」と書くと、誰にも届かない文章が返ってきます。宛先を書いていない手紙と同じです。
他の店にはない一点は、こちらから渡す
次に必ず入れるのが、自分の店の売りです。美容院なら「顔が小さく見える切り方」、パン屋なら看板になっている商品。ここはAIが知りようのない情報ですから、書かなければ絶対に出てきません。
売り以外にも、店のある場所、来てほしい範囲、業種として外せない言葉があれば、まとめて渡します。渡した言葉は、文章の中に織り込まれて返ってきます。渡さなかった言葉は、どこにも出てきません。
読んだ人に、何をしてほしいのか
見落とされやすいのがここです。店まで来てほしいのか、電話をしてほしいのか、その場で買ってほしいのか、予約の画面を開いてほしいのか。ここが決まっていないと、読み心地は良いのに行き先のない文章ができあがります。
書かせる前に一つだけ選んでください。二つ書くと、たいていどちらも弱くなります。
反応をうながす一言は、入れる前に見きわめる
「良ければ反応をください」「今日のお昼は何を食べましたか」。読んだ人に一声かける形の文は、頼めばいくらでも作ってくれます。ただしこの形は、すでに見てくれる人がある程度いる場所でこそ効きます。
始めたばかりの場所で問いかけを投げても、返事のないまま流れていきます。かえって寂しい見た目になってしまう、という見方もあります。人が集まるまでは、問いかけよりも、店のことを一つずつ知らせる文のほうが向いていると私は考えています。入れるか入れないかも、書かせる前に決めておくところです。
長さと口調は、書かなければ揃わない
文字数のおおよその範囲と、口調の指定も指示に入れます。「やさしい口調で」と一言添えるだけで、文の表情は変わります。
口調は毎回変えないほうがいいと私は考えています。読む人の側に「この店の文章はいつもこの調子だ」という感覚が残るところまで続けると、名前を見なくても分かるようになります。多少くせがあるくらいで構いません。
一度書いた指示は、型にして残す
ここまで決めたら、その指示文をどこかに保存しておきます。次からは、宛先の一行と売りの言葉を入れ替えるだけで済みます。毎回ゼロから考えるのと、置き換えるだけなのとでは、続けやすさがまるで違います。
季節の行事に合わせた案内も同じです。母の日や父の日のように日付が先に決まっているものは、暦を見ながら一年ぶんをまとめて作れます。一度作った型は、翌年も手直しだけで使えます。
私は長いあいだ、AIへの指示は短いほど良いと思っていました。短く書けば、こちらの意図を汲んでくれるだろうと考えていたのです。実際は逆でした。決めた分だけ返ってきて、決めなかった分は返ってきません。
次に何かを書かせるときは、画面を開く前に紙を一枚出して、四行だけ書いてみてください。誰に、何を売りに、どうしてほしいか、どのくらいの長さで。この四行が書けていれば、その日の文章はもう半分できています。
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