記録の下書き、計画の文の整理、会議のまとめ。福祉の事業所でもAIを使える場面は増えています。その一方で、管理者の方から最も多く聞く心配が、利用者さんの情報の扱いです。
「職員が、利用者さんの名前をそのままAIに入れていないか」「どこまでなら入れてよいのか、自分でも分からない」。この心配は、もっともです。福祉の事業所が扱う情報には、病気や障害、家族の事情など、とくに配慮が要るものが多く含まれます。
私たちが運営する就労継続支援B型の事業所「フェイス・トゥー・フェイス」でも、AIを使い始める前に、まずこの決まりを作りました。この記事では、情報の伏せ方と、職員が迷わない決まりの作り方をお伝えします。
決まりがないと、職員は2つに分かれる
決まりがないまま「AIを使ってよい」とだけ伝えると、職員は2つに分かれます。怖がって一切使わない人と、気にせず何でも入れてしまう人です。どちらも、事業所にとって望ましくありません。
決まりを作る目的は、使うのを止めることではなく、安心して使えるようにすることです。「ここまでは入れてよい」「ここからは入れない」がはっきりしていれば、職員は迷わずに使えます。
入れない情報
まず、AIに入れない情報を決めます。私たちが線を引いているのは、次のような情報です。
- 氏名、ふりがな、あだ名
- 生年月日、年齢が細かく分かる書き方
- 住所、電話番号、メールアドレス、迎えの具体的な場所
- 制度の手続きに使う番号の類
- 病名、障害の詳しい内容、服薬の内容
- 家族の名前や、家族の事情の詳しい内容
これらは、支援の文を整えるという目的には、ほとんどの場合要りません。要るように見えても、記号や一般的な言い方に置き換えれば足ります。
伏せ方の基本は「記号」と「ぼかし」
伏せ方は、2つの方法を組み合わせます。
1つめは記号です。利用者さんの名前を「Aさん」「Bさん」のような記号に置き換えます。記号と本人の対応表は、事業所の中の、決まった場所だけに置きます。AIに渡す文には、記号しか出てきません。
2つめはぼかしです。細かすぎる情報を、目的に足りる程度の粗さに直します。たとえば病院の名前と通院の日付は「通院のため午後から通所」に、「駅の北口から乗車」は「乗り場1から乗車」にします。
慣れないうちは、AIに渡す前に、伏せた文を一度声に出して読んでみてください。知っている人が聞いて、誰のことか分かってしまう言い方が残っていないかを確かめます。
使う道具も決めておく
情報の扱いは、入れる中身だけでなく、どの道具を使うかでも変わります。AIの道具には、入れた内容を学習に使うかどうかの設定や、会社として契約して使うかどうかの違いがあります。
事業所で使う道具を決め、その設定を管理者が確かめておきます。職員が自分で見つけてきた道具を、確かめないまま業務に使うことは避けます。
決まりを紙1枚にする
決まりは、長い規程より、紙1枚の方が守られます。私たちが勧めている形は、次の5つの欄です。
- 使ってよい道具の名前
- 入れてよい情報の例
- 入れない情報の一覧
- 伏せ方の例(記号とぼかし)
- 迷ったときに聞く人
最後の欄が大事です。決まりに書いていない場面は、いずれ出てきます。そのときに誰に聞けばよいかが書いてあれば、職員は自分の判断で入れてしまわずに済みます。
この紙を、パソコンの横や、記録を書く机に貼っておきます。新しい職員が入ったときは、この紙を一緒に読むところから始めます。
外に出す文にも、同じ決まりを使う
この決まりは、AIに入れるときだけのものではありません。SNSの投稿、求人票、事業所の便り。外に出す文にも、同じ線を引くことができます。AIに入れない情報は、たいてい外に出す文にも書かない方がよい情報です。
1枚の紙で、AIに入れる場面と外に出す場面の両方を見られるようにしておくと、職員が覚える決まりが1つで済みます。決まりが少ないほど、守られやすくなります。
決まりは、使いながら直す
最初から完璧な決まりは作れません。使い始めてから、「この場合はどうするか」という問いが出てきます。その問いを集めて、数か月に1度、決まりを見直します。
見直しのときには、職員が実際にAIに渡した文を、名前を伏せたまま何本か持ち寄って読み合うのも効果があります。伏せ方の上手な例と、危なかった例が共有できます。
安心して使えることが、いちばんの近道
AIで事業所の事務を楽にしたいなら、遠回りに見えても、この決まりを先に作るのがいちばんの近道です。職員が安心して使えれば、使う人が増え、使い方も上手になっていきます。
伏せた情報で何ができるかは、私たちが公開している個別支援計画書のAI下書きの試しのページで確かめられます。架空の利用者さんの面談メモだけで、計画の欄に沿った下書きが出る様子を見られます。
この10本の全体の地図はAIに任せる仕事と任せない仕事の記事にまとめています。まずは、入れない情報の一覧を、職員と一緒に書き出すところから始めてみてください。
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