支援の記録を書く時間が、勤務の最後に残る。日中は利用者の方と向き合い、記録は夕方以降にまとめて書く。その結果、記録の時間がそのまま残業になる。多くの事業所で、この形が当たり前になっています。
ここに、話すだけで記録になる、という道具の広告が届き始めました。
「音声で記録が自動でできる」という売り文句
見かけたのは、介護や障害福祉の現場に向けた業務支援の広告で、音声で話した内容から支援経過の記録を自動で作る、外出先でも携帯端末から入力できる、報告書向けの要約も作れる、とうたうものでした。事務の負担を減らすという訴えです。
書く時間に追われている現場ほど、心が動く売り文句だと思います。私は方向として現実的だと見ています。書き起こしという作業は、まさに機械の得意分野だからです。ただ、入れる前に決めておくべきことが三つあります。
楽になるのは「書き起こし」まで
まず、期待の水準を正しく置くことです。音声の道具が肩代わりしてくれるのは、頭の中にある出来事を文字にする、いちばん時間のかかる部分です。これは大きい。
ただし、出てきた文章がそのまま公式の記録になるわけではありません。言い間違い、言葉づかい、支援の記録として残すべき観点の抜け。読み返して整える仕事は残ります。話せば終わり、ではなく、下書きが速くなる、が正しい期待です。ここを取り違えると、導入したのに結局手で書き直している、という不満になります。
このような定型の作業とツールの相性については、毎月同じ書類を手で作り直していないか——定型の事務とAIの相性でも詳しく触れている通り、業務全体を見据えた整理が大切になります。
試す前に決める三つのこと
第一に、どの記録から使うか。記録には、日々の経過のように量が多いものと、事故の報告のように正確さが最優先のものがあります。最初に音声へ移すのは、量が多くて、あとから直せる種類の記録です。
第二に、整える係を決めること。音声からできた下書きを、誰が、いつ、どの観点で確認して確定させるのか。ここが曖昧なまま始めると、下書きのまま綴じられた記録がたまっていき、あとから読み返す人を苦しめます。
第三に、個人情報の扱いです。話した内容がどこに送られ、どこに保存されるのか。利用者の名前を声に出して吹き込んでよい運用なのか。契約の前に、預け先の説明を文書で確かめることです。
導入前に記録時間を測るやり方
音声入力を導入する前には、まず実際の記録時間を測ることから始める必要があります。なんとなく「遅い」「残業が多い」と感じるだけでなく、日々の業務の中で記録にどれだけの時間が割かれているかを正確に把握するためです。
例として、日々の経過記録や連絡帳の作成にかかっている時間を、数日間にわたって測ってみます。時間の実測を行うことで、どの工程に一番時間がかかっているかが見えてきます。この事前の計測がないままツールを入れてしまうと、本当に負担が軽くなったのかどうかを判断する基準がなくなってしまいます。
整える係の確認の観点の例
音声入力で作成された下書きを最終的な記録として確定させる際には、確認を担当する「整える係」の役割が重要になります。誰がどのような観点でチェックを行うかをあらかじめ決めておきます。
確認の観点の例として、以下のようなポイントを挙げておくと現場で迷いにくくなります。
- 支援内容に誤りや言い間違いが含まれていないか
- 必要な記録項目や観察の視点が抜けていないか
- 事業所の書式や言葉づかいのルールに沿っているか
こうした確認の役割をあらかじめ決めておくことで、下書きのまま不十分な記録が放置されるのを防ぎます。
預け先の説明で確かめる点の一覧
個人情報の扱いについては、契約や導入の前に提供元の説明をしっかりと確認しなければなりません。特に音声データを扱う仕組みでは、どのような点に注意して確認すべきかを整理しておく必要があります。
確かめる点の一覧の例としては、音声データや変換されたテキストが外部のサーバーに保存される際の暗号化の有無、データの保存期間や削除の仕組み、利用者の個人情報や固有名詞が含まれる場合の取り扱いに関する規約などが挙げられます。
万が一のトラブルやヒヤリとした出来事が起きた際の情報共有や記録の取り扱いについても、ヒヤリとした出来事を、責めずに集める段取りなどを参考にしながら、安全な運用体制を整えることが求められます。
小さく一種類から、声の出しやすい場所で
始め方は小さくが原則です。まず一種類の記録、担当も数人から。うまくいってから広げるほうが、全員一斉に始めてつまずくより、結局は早く進みます。
声を出してよい場所の決め方
意外に見落とされるのが、声を出す場所の問題です。利用者の方の目の前で記録を吹き込むことが適切かどうかは慎重に考える必要があります。
声を出してよい場所の決め方の例として、事務室内や、移動中の車内、あるいは周囲に利用者がいない落ち着いたスペースなどをあらかじめ明確に定めておく方法があります。どこで話してよいかを先に決めておくと、現場の職員が迷わずにツールを活用できるようになります。
現場での情報共有や他部署への引き継ぎが必要になる場面では、相談の電話の記録を、次の担当へつなぐ段取りのように、スムーズに情報を伝えるためのルール作りもあわせて意識しておくと円滑です。
効き目は、時間で測る
試用を始めたら、効き目は感想ではなく時間で測ることを勧めます。導入の前に、記録にかかっている時間をひと通り測っておく。ひと月後に同じ測り方で比べる。楽になった気がする、では判断を誤ります。私が時間の実測にこだわるのは、道具の費用と手間に見合うかどうかを決める材料が、それしかないからです。
手で書く記録を残す、という判断もある
最後に、すべてを音声にする必要はない、ということも書いておきます。本人の言葉をそのまま書き留めたい場面、考えながら書くことで観察が深まる記録もあります。
道具の目的は、記録をなくすことではなく、書く時間を支援の時間に返すことです。どの記録を速くし、どの記録は手を掛け続けるか。その仕分けこそ、道具より先に決める価値のある判断だと私は思います。
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