事業所を運営していると、「苦情」という言葉に身構えてしまうことがあります。できれば来てほしくないもの、来たら謝って収めるもの。私も以前は、そう考えていました。
けれど、あるときご家族から「前から気になっていたけれど、言っていいのか分からなかった」と打ち明けられました。聞けば、小さな不満が何か月も積み重なっていたのです。もっと早く聞けていれば、すぐに直せたことでした。
苦情や要望は、言い出せないまま積もるほうが、事業所にとっても、利用者さんにとっても不幸です。この記事では、苦情・要望の受け付け窓口を分かりやすくし、言い出しやすい入口を作る段取りをお伝えします。
言い出せない理由を知る
利用者さんやご家族が、不満や要望を言い出せないのには理由があります。
- 言ったら、支援に影響するのではないかと心配になる
- 担当の職員に直接言うのは気まずい
- どこに、誰に言えばいいのか分からない
- 大げさなことにしたくない
どれも、もっともな気持ちです。特に、毎日通っている事業所に対しては、関係を悪くしたくないという思いが強く働きます。窓口を作るときは、この気持ちに寄り添うことから始めます。
苦情の受け付けや解決の仕組みについては、事業所として整えておくべきことが定められています。具体的な決まりは、自治体や最新の通知で確かめてください。ここでは、その仕組みを利用者さんやご家族にとって使いやすくするための工夫をお伝えします。
窓口を、見える場所に示す
まず大切なのは、窓口がどこにあるのかを分かりやすく示すことです。契約のときの書類に書いてあるだけでは、いざというときに思い出してもらえません。
事業所の入口や玄関の掲示、ホームページ、ご家族へのお知らせメールの末尾。何度も目に触れる場所に、受付の担当者と連絡の方法を載せておきます。「ご意見・ご要望をお聞かせください」という言葉を添えると、苦情という言葉よりも、声をかけやすい印象になります。
入口を、いくつか用意する
言い出しやすさは、入口の種類でも変わります。対面や電話で話すのが負担な方のために、文字で伝えられる入口を用意しておきます。
- 要望を送れるフォーム
- 受付用のメールアドレス
- 事業所に置く意見箱
フォームには、名前を書かずに送れる欄を用意しておくのも1つの方法です。名前を書かなくてよいと分かるだけで、書ける方が増えます。ただし、名前がないと返事ができないことも、あわせて伝えておきます。
フォームで受け付けたら、「ご意見をお受けしました。担当者が内容を確認いたします」と自動で返すことができます。送った声が届いたと分かるだけで、相手の不安はやわらぎます。
担当の職員以外にも言えるようにする
担当の職員に対する不満は、その職員には言いにくいものです。窓口の担当者は、利用者さんと日々直接かかわる職員とは別の人にしておくと、言い出しやすくなります。
事業所の中で言いにくい場合に、外部の相談先があることも案内しておきます。どこに相談できるかは地域によって違うので、自治体の窓口などを確かめたうえで、分かりやすく示しておきましょう。
受けたあとの流れを決めておく
窓口を作ったら、受けたあとに何をするかを決めておきます。流れが決まっていないと、受け付けたまま止まってしまいます。
私の事業所では、次の順で進めています。
- 受け付けた内容を、決めた場所に記録する
- 窓口の担当者が、管理者と内容を共有する
- 必要に応じて、相手に話を詳しく伺う
- 対応を決め、相手に伝える
- 対応の結果と、同じことを防ぐための工夫を記録する
記録は、あとから振り返れるように1か所にまとめます。どんな声がどれくらい届いているかが見えると、事業所の改善点も見えてきます。
声をくれたことに、まず感謝する
苦情や要望を受けたとき、最初に伝えたいのは感謝です。言いにくいことを伝えてくれたのは、事業所をよくしたいという気持ちがあるからこそです。
言い分をすぐに否定したり、事情の説明から始めたりすると、相手は二度と言ってくれなくなるかもしれません。まずは最後まで聞く。そのうえで、何ができるかを一緒に考えます。
対応したことを、見える形で返す
声を寄せても何も変わらなければ、次からは言ってもらえなくなります。受けた声にどう対応したかを、相手に伝えることが大切です。
個別の声には、担当者から直接、対応の内容を伝えます。多くの方に関わる要望であれば、事業所全体への知らせとして返すこともできます。「送迎の時間の連絡が遅いというご意見をいただき、前日の夕方にお知らせを送るようにしました」のように、いただいた声と変えたことを短く書くだけで十分です。
こうした知らせは、ご家族へのお知らせメールで届けられます。声が形になったことが見えると、窓口は「言っても仕方ない場所」から「言えば変わる場所」になります。
声の扱いには細心の配慮を
寄せられた苦情や要望には、個人的な事情が書かれていることがあります。記録を見られる職員を必要な人に絞り、相手が特定されない形で共有するなど、扱いには十分に気をつけます。
特に、声をくれたことが原因で、その方への対応が変わることは、決してあってはなりません。この約束を職員全員で共有し、窓口の案内にも書いておきます。
まずは掲示を1枚から
窓口の仕組みを一度に整えるのは大変です。まずは、受付の担当者と連絡の方法を書いた掲示を1枚作り、事業所の入口に貼ってみてください。フォームの入口もあわせて載せられれば、なおよいでしょう。
声が届く入口が見えるようになると、小さな不満が大きくなる前に、話し合えるようになります。苦情や要望は、事業所を育ててくれる大切な声です。
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