職員から退職の相談を受けたとき、「もっと早く気づけたのではないか」と思ったことはないでしょうか。私は何度もあります。
あとから面談の記録を読み返すと、たいていその前から小さなサインが出ています。「最近、帰りが遅くなることが多くて」「あの利用者さんの対応に、少し迷っています」。その場では聞いていたはずなのに、記録に書いたまま、次の面談まで誰も読み返していなかったのです。
この記事では、面談記録を「書いて終わり」にしないための残し方と、読み返す順番についてお伝えします。
面談記録は、書くより読み返すほうが大事
多くの事業所では、定期的に職員と面談をしています。記録も残しています。ところが、その記録が次に開かれるのは、次の面談の直前か、何か問題が起きたときだけ、ということが少なくありません。
面談記録の価値は、1回分の内容よりも、何回分かを並べたときに見える変化にあります。前回と比べて表情はどうだったか、同じ悩みを繰り返していないか、言葉の調子が変わっていないか。こうした変化は、1回の面談だけを見ていても気づきにくいものです。
辞める前に出やすい声
職員が辞めることを考え始めたとき、いきなり「辞めたい」とは言いません。その前に、別の形で声が出てきます。私がこれまでの面談で気づいたのは、たとえば次のような言葉です。
- 体の疲れや睡眠の話が増える
- 特定の利用者さんや職員との関係の話が何度も出る
- 「自分に向いているのか」という迷いを口にする
- 先の話、たとえば来年やりたいことを話さなくなる
どれも、それだけで辞めるサインだと決めつけるものではありません。ただ、同じ種類の話が続けて出てきたときは、管理者が意識して声をかけるきっかけになります。
記録は「本人の言葉」と「管理者の受け止め」を分ける
読み返して気づける記録にするには、書き方を少しそろえておくことが大切です。私がおすすめしたいのは、本人が話した言葉と、管理者がどう受け止めたかを分けて書くことです。
本人の言葉は、できるだけそのまま短く残します。「最近、帰りの送迎のあとがしんどい」のように、要約しすぎずに書いておくと、あとで読み返したときにその場の空気が思い出せます。
管理者の受け止めは、そのあとに1行で書きます。「疲れが続いている様子。勤務の組み方を次回までに見直す」。こうして分けておくと、事実と解釈が混ざらず、次に読む人にも伝わりやすくなります。
読み返しをAIに手伝ってもらう
面談記録が何人分、何回分とたまってくると、全部を読み返すのは管理者1人では大変です。ここで、文章を読んで要点をまとめるAIが役に立ちます。
たとえば、ある職員のこれまでの面談記録を並べて、「繰り返し出ている話題」「前回から変わった点」を書き出してもらう。これだけで、読み返しの入口がぐっと楽になります。AIは記録の中の言葉を拾って整理するのが得意です。
ただし、AIが出した整理はあくまで読み返しの手がかりです。その職員が本当にどう感じているかを判断するのは、実際に顔を合わせている管理者です。AIのまとめをそのまま評価に使ったり、本人に伝えたりはしないようにしています。
記録の扱いには、特に気をつける
面談記録には、職員の体調や家庭の事情、人間関係の悩みなど、とても個人的な内容が含まれます。扱いには細心の注意が必要です。
AIに読ませるときは、氏名を伏せる、家族の事情など不要な部分は外す、といった配慮をしてから渡します。どの記録を誰が見てよいのかも、事業所の中で決めておきます。面談の内容が本人の知らないところで広まってしまえば、次から本音を話してもらえなくなります。
面談の最初に「ここで話したことは、勤務の調整のためだけに使います」と伝えておくのも、安心して話してもらうための大事なひと言です。
読み返す順番を決めておく
面談記録を読み返すタイミングは、次の面談の前がいちばん自然です。私は、次の順番で見るようにしています。
前回の「管理者の受け止め」を先に読む
前回、自分が何をすると約束したのかを最初に確かめます。勤務の組み方を見直すと書いていたのに、実際には何も変わっていなかった。こうしたことは、意外とよくあります。約束が果たされていないまま次の面談に入ると、職員は「話しても変わらない」と感じてしまいます。
次に、ここ数回分の本人の言葉を並べて読む
1回分ではなく、数回分を続けて読むと、繰り返し出ている話題が見えてきます。同じ悩みが続いているなら、それは本人だけでは解決できないことなのかもしれません。
最後に、今回聞きたいことを1つ決める
読み返した結果から、今回の面談でいちばん聞きたいことを1つだけ決めておきます。あれもこれも聞こうとすると、面談が確認作業のようになってしまいます。
気づいたら、小さく動く
面談記録から気になる声に気づいたら、大きな対策を考える前に、小さく動くことを大事にしています。勤務の組み方を1つ変える、担当の組み合わせを一時的に替える、少し話を聞く時間を取る。職員にとっては、「気づいてもらえた」と感じることそのものが支えになります。
以前、感謝の言葉を職場で見えるようにする仕組みについて書きましたが、面談記録の読み返しはそれとは別の角度から職員を支えるものです。感謝を伝える仕組みが日々の空気を温めるものだとすれば、面談記録は1人ひとりの変化に気づくためのものです。
まずは1人分を読み返してみる
いきなり全員分の記録を見直す必要はありません。まずは、次に面談を予定している職員1人分の記録を、前回までさかのぼって読み返してみてください。
前回の約束は果たせていたか。同じ話が続いていないか。それを確かめてから面談に臨むだけで、職員との話し合いの質はきっと変わります。辞める前の小さな声は、すでに記録の中にあるのかもしれません。
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